金持ちとラザロ(3)(ルカ16章)
聖書箇所は、ルカの福音書16章19節から31節です。
共観福音書の並行個所はなく、ルカ単独の記事です。
投稿文三回の中の(3)です。(3)では26節から31節を読みます。
●26節.そればかりか、わたしたちとお前たちの間には大きな淵があって、ここからお前たちの方へ渡ろうとしてもできないし、そこからわたしたちの方に越えて来ることもできない。』
「わたしたち」とは、アブラハムを代表とする過去のイスラエルの義人たちで、その人たちがいる場所は楽園(パラダイス)です。
「お前たち」とは、地上で働きもしないで遊び暮らしていた金持ちのことで、その人たちがいる場所は、陰府(ハデス)のことだと思いますが、両者間には、越えることができない「大きな淵があって」渡ることができないとアブラハムは告げます。
●27節.金持ちは言った。『父よ、ではお願いです。わたしの父親の家にラザロを遣わしてください。
●28節.わたしには兄弟が五人います。あの者たちまで、こんな苦しい場所に来ることのないように、よく言い聞かせてください。』
金持ちは、まだ生きている父親の家にいる五人の兄弟が「こんな苦しい場所」に来ることがないようよく言い聞かせてほしい、と言っています。
しかし、「わたしの父親の家にラザロを遣わしてください。」と言っているのですから、ラザロは死んで陰府にいるのですから、陰府から地上の世界に戻ることになります。
いわゆる、日本でいう「黄泉帰り(よみがえり)」です。
●29節.しかし、アブラハムは言った。『お前の兄弟たちにはモーセと預言者がいる。彼らに耳を傾けるがよい。』
金持ちの懇願に、アブラハムはそのことに直接答えないで、この金持ちと兄弟たちはユダヤ人であり、ユダヤ人には神から遣わされたモーセと預言者たちが神の戒めと神の言葉を伝えている(旧約聖書で、モーセによりユダヤ人に与えられた律法と預言の書のこと)のだから、その言葉に「耳を傾け」て従うならば、このような苦しい場所に来ることはないと言ったのです。
●30節.金持ちは言った。『いいえ、父アブラハムよ、もし、死んだ者の中からだれかが兄弟のところに行ってやれば、悔い改めるでしょう。』
金持ちはさらにアブラハムに懇願します。
それは、金持ち自身がこの世にいる時にはユダヤ教徒としてモーセ律法を知り、預言者の教えも会堂で聴いていたのですが、それでもこのように陰府でもだえ苦しむ結果になったのです。
だから、自分の兄弟たちもユダヤ教徒として安息日には会堂でモーセ律法を学び、預言者の言葉に耳を傾けていますが、同じような生活をしている彼らも自分と同じ陰府に落ちることになります。
金持ちの心情としては、もし死んだ者が地上に戻り、死後の世界のことを教えたら、楽園の喜びと陰府の苦しさを伝えたら、彼らも悔い改めて真剣にモーセ律法と預言者の言葉に聴き従うようになり、このような苦しい場所に来ることから逃れることができるはずだ、ということでしょう。
勝手な金持ちの言い分ですが、死後の世界から帰ってきて、その様子を伝えた者はいまだかつて、いや、イエス以外におりません。
●31節.アブラハムは言った。『もし、モーセと預言者に耳を傾けないのなら、たとえ死者の中から生き返る者があっても、その言うことを聞き入れはしないだろう。』」
ユダヤ教徒には、神からの語りかけの言葉としてモーセ律法と預言者の言葉が与えられています。
その言葉に聴き従い、神との交わりの中で霊性を養い、神の祝福の中で喜びと平安に満たされて生きる道がイスラエルに与えられた道なのです。
モーセと預言者に聴き従おうとしない者には、たとえ死者の中から生き返ってこの世に戻り、死後世界の楽園や陰府の様子を語る者があっても、その言葉には耳を貸さないであろう、と言っているのでしょう。
人の心の頑なさを語っておられるのでしょう。
事実イスラエルは神から遣わされ福音を告知されたイエスを殺してしまいました。
イエスは「陰府」とか「地獄」に落ちる苦しみを問題にされましたが、新興宗教のように地獄に落ちる恐怖を説いて悔い改めとか信者を勧誘とか献金を強要された方ではありません。
イエスは、あくまで神の「恩恵の支配」を告げ知らせ、ご自分で奇跡やしるしを見せ、このように現に神の恩恵による支配が来ているのだから神に立ち帰りなさいと説かれました。
イスラエルはそのイエスを、その呼びかけを聞き従うどころか殺してしまったのです。
それほど、神から離れて、罪に支配された人の心は頑なだと言うことでしょうか。
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